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「スラン」は1940年に4回にわたって雑誌連載された※1ヴァン・ヴォークトの処女長編で、ミュータントテーマの古典的名作である。スランとはサミュエル・ランの短縮であるとされ、S・ラン博士の実験によって誕生した人間の突然変異体のこと。スランは人間に優る体力と知能、そして読心の能力を持つ。外見の最大の特徴は、読心能力と関連して頭部に発現した触毛。 優れた能力を持つスランと人類の間に起ったスラン戦争後、スランは人類に狩り立てられる存在となり、両親を秘密警察に殺された9歳のスランのジョミー・クロスは人間の老婆の虜となって貧民窟で暮らすことになる。 ジョミーは老婆のもとで犯罪の片棒を担がされながら、成長して科学者であった父の研究を受け継ぐ機会を待った。 父の遺産を受け継いだジョミーはスランの亜種である無触毛スランのグループと接触することになった。その過程でスランと人類のみならず、純スランと無触毛スランの間にも抗争の歴史と激しい憎悪があることを知る。 戦争後に生じた三竦みの対立関係の解決には、どこかに存在するはずの純スランのグループに接触する必要がある。ジョミーは要塞化したアジトから孤独な探索を続けた。 作品中では※2原子力という言葉が頻繁に使われるが、ジョミーの父の研究とは対消滅反応の実用化という雰囲気だった。この研究の後継者となったことでジョミー・クロスは人類からもスランからも特別な存在になるのだが、この作品のテーマは人類の後継者としての新人類の試練である。 旧人類と突然変異体として誕生した新人類の対立やテレパスとテレパスの感情の交流などは、よくはわからないが出版年代を考えれば、この作品によってスタイルが決定されたとも思われる。 ただ、この作品はそのようなアイディアや表現の先駆であるという枠では量り切れない魅力を湛えている。 人類の指導者であって独裁者キア・グレイのもとには、スラン研究の名目で若いスランのキャスリーン・レイトンが囚われているのだが、それまで憎悪と劣情の中で孤独に暮らしてきたキャスリーンとジョミーが初めて出会い、出合った途端に別離が生ずる非常にせつない関係や、物語の根幹に関わるからあまり書けないが、キア・グレイの自らの役割に対する献身と孤高は、かりに有り得ないとしても胸を打つはず。 今風に言えば"萌え"の感覚に近い、次々に波乱が起る展開や登場人物たちの造形の美しさなど、小説としての面白さも抜群である。非常に古い作品だが多くの作品に※3影響を与えた傑作と言える。 追 記 ※1「スラン」の他に「宇宙船ビーグル号の冒険」「非Aの世界」などを書いた。リドリー・スコット監督の「エイリアン」の設定は「宇宙船ビーグル号の冒険」の第三部の雰囲気を彷彿とさせる。 ※2原子力が実用化される以前の執筆である。 ※3同系統の作品にはジョン・ウィンダムの「さなぎ」がある。あと、テーマは違いで無関係ではあるけれども、似たパターンの謎とどんでん返しにアイザック・アシモフの「暗黒星雲の彼方に」があることも書いておきたい。 |
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